風が、吹いた
「俺のわがままだからって。少しだけで良いから。何もしないからって。あの言葉の意味、あれから私よく考えてたんだけど…」
吉井が息を深く吸ったのがわかった。
「くらもっちゃんのこと、縛りたくなかったんだと思う。私見てて、思ってたんだ。なんで先輩は、くらもっちゃんに恋人らしいこと、しないのかなって。たとえば、プレゼントしたりとか、そういうのも、なかったし…」
一息にそう言うと、また間があった。
「…ごめん。何をどう伝えればいいのか、ちょっとわからないんだけど…椎名先輩は、くらもっちゃんのこと、本当に好きだったんだよ。すごく…大切にしてた。こうなること、わかってたからこそ、なおさら、くらもっちゃんの傷が深くならないように、してたんだよ。」
だから、と続ける。
「ひとりでいいなんて、言わないでよ。椎名先輩はくらもっちゃんのこと、大事にしてた。うちらも、くらもっちゃんのこと、大切に思ってる。くらもっちゃんが良くても、うちらは良くない。」
浅尾が引き継ぐように、言った。
「俺ら、友達、だろ?」
「月曜日、、待ってるからね」
今の、ささくれた私の心にひりつく言葉を残して、ふたりは帰って行った。
頭が、パンクしそうだ。
「っつ…」
涙は、どうして、出るんだろう。
どれだけ流したら、枯れてくれるんだろう。
―椎名先輩ね、くらもっちゃんのこと、本当に好きだったと思う。
―縛りたくなかったんだと思う。
どうせなら。
縛ってくれれば良かったのに。
心はとっくに、くっついて剥がせないのに。
忘れろっていうこと?
貴方とのことを、なかったことのように、暮らせということだろうか。