風が、吹いた
「…どうして…?」
手の甲で、涙をぬぐうけれど、後から後から止め処なく流れるそれは、頬を伝って足元に落ちる。
どうして好きと言ったの?
どうして会えないの?
どうして何も言わないまま、行っちゃうの?
待ってても、会えないの?
生きていくこの先の道が、貴方と交わることは、もうないの?
まだ。
まだ、私のこと、好き?
「訊けばよかった…」
天井を見上げる。
佐伯さんが教えてくれた彼の携帯番号を、さっき家に帰る途中で、試してみた。
無機質な女の人の声が、この電話は使われていないと、冷たく言った。
それでも、街を歩いていれば、偶然会えたりするかもしれないと、
心のどこかで思っていたのに。
―アメリカの大学だった
それも叶わなくなった。
佐伯さんや、吉井の記憶の中にいる彼は笑ってるのかな?
それとも、切ない顔をしてるのかな。
私の記憶の中にいる彼は、まだはっきりと、優しく笑んでいるのだけれど。
私の涙は、枯れないの。
だって、
あなたは、もう、いない。
私の、そばに、もう、いない。