風が、吹いた
置き忘れた心
風が、吹いた。
残暑がまだしつこく残るけれど、暦の上では立秋をとっくに過ぎている。
鱗雲が、ぽつぽつと青い空に白の絵の具を落とす。
思わず、空に、片手を伸ばして、掴めないだろうかと広げた指の隙間から見える青に、しばし見惚れた。
「また、ここに居たの?」
白衣を着た青年が、同じく白衣を着て片方の手をポケットに突っ込み、もう片方を空に向かって伸ばしている女性に声を掛ける。
「教授が呼んでるよ」
振り向いた彼女にそう言うと、もたれかかっていた屋上の扉の向こうを、親指で差した。