風が、吹いた
「息子さん、もう受験なんですね。」
時間が経つのは早いものだな、と他人事のように感じた。
「そうなんだよ。来年すぐにセンター試験があるし、家に帰っても家内と息子がピリピリしていて、どうにも居心地が悪くてね」
疲れが取れないよ、なんて、田邊は肩を竦ませる。
「…センター試験、ですか。じゃ、日本の大学なんですね」
無意識のうちに呟いた言葉に、田邊がぎょっとする。
「当たり前だよ。外国なんて受けるわけないよ。」
彼の反応に、自分が心の声を、口にだしてしまったことに気づく。
「すみません…ちょっと、知り合いのことを、思い出しまして。こっちの話です。」
慌てて、謝罪した。
「へぇ。その知り合いの子、外国に行ったの?」
片眉を上げて、机の上で手を組みながら、田邊が興味深そうに尋ねる。
「えぇ、たぶん」
「多分って。。。」
彼女の曖昧な言葉に、田邊は、今度は首を捻った。
窓から見える飛行機雲を目で辿りながら、独り言のように彼女は呟く。
「…勝手にセンター試験受けてるとばかり思い込んでたから、気づかなかったんです。」