風が、吹いた
「なんで、そんな意地悪、言うのよぉっ…」
俯いた地面に、涙が吸いとられていく。
浅尾を叩いている私の手が、じんじんとしてきて、やがて力が入らなくなった。
動きが止まった手を、待っていたかのように、やんわりと掴まれる。
「俺は、狡いんだよ」
次の瞬間、ふわっとした感触がしたと思うと、浅尾の胸の中に居た。
「…っ、放してよっ」
胸を押し返すが、力が敵う筈なかった。
ぽん、と浅尾の手が、私の頭に優しく置かれる。
浅尾の、心臓の音が、聴こえる。
それは、大きくて、速くて、彼が口に出さない苦しい想いを代弁してるかのようだった。
「俺、言ったよね。いくらでも待てるって。…俺は、倉本の傍に居たい。」
浅尾が、夜空を仰いだのが、気配でわかった。
「…本当は、今日、こんなこと、言うつもりなんて、なかったんだけどな」
ふぅ、と息を吐いて言った言葉は、少しの後悔を匂わせるような口ぶりだった。