風が、吹いた
私はー
『好き』の心を、どこかに置いてきてしまったらしい。
それが、どこなのかは、はっきりとわかってる。
でも、取り戻す手段が、わからない。
あれは、あそこが居心地がいいのだと言い張っている。
そこから、離れたくはないのだと。
どうして、忘れなきゃいけないのと、叫んでいる。
覚えていたら、駄目なの?と。
キラキラと輝く思い出に、くっついて縋って生きるのは、そんなにいけないことなんだろうか。
でもー
限界だってことも、理解(わか)ってる。
ねぇ、貴方の手のぬくもりも。
額に置かれた時のひんやりとした冷たさも。
大好きな笑った顔も。
声も。
目も。
さらさらと揺れる綺麗な茶色い髪も。
抱きしめられた時の香りも。
切ない横顔も。
触れるだけの最初で最後のキスも。
本当は、もうとっくに、ぼやけてしまって、よく、見えない。
ただ、置いてけぼりの心だけが。
貴方から離れたくないと泣いている。
貴方に逢いたいと泣いている。
私の中から、あの人を、思い出にしないでと泣きじゃくる。
最愛の人に、置いて行かれたという事実を、受け止められないでいる。