風が、吹いた







私はー



『好き』の心を、どこかに置いてきてしまったらしい。



それが、どこなのかは、はっきりとわかってる。



でも、取り戻す手段が、わからない。



あれは、あそこが居心地がいいのだと言い張っている。



そこから、離れたくはないのだと。



どうして、忘れなきゃいけないのと、叫んでいる。



覚えていたら、駄目なの?と。



キラキラと輝く思い出に、くっついて縋って生きるのは、そんなにいけないことなんだろうか。






でもー




限界だってことも、理解(わか)ってる。







ねぇ、貴方の手のぬくもりも。





額に置かれた時のひんやりとした冷たさも。






大好きな笑った顔も。




声も。




目も。




さらさらと揺れる綺麗な茶色い髪も。







抱きしめられた時の香りも。




切ない横顔も。



触れるだけの最初で最後のキスも。









本当は、もうとっくに、ぼやけてしまって、よく、見えない。







ただ、置いてけぼりの心だけが。






貴方から離れたくないと泣いている。






貴方に逢いたいと泣いている。







私の中から、あの人を、思い出にしないでと泣きじゃくる。







最愛の人に、置いて行かれたという事実を、受け止められないでいる。


< 347 / 599 >

この作品をシェア

pagetop