風が、吹いた
「1年目の新人、加賀美か。どう、あいつ」
エレベーターのボタンを操作しながら、東海林が聞いてきた。
「中々優秀ですよ、彼女は。」
扉が閉まり、上昇を示すランプが点滅するのを、見つめる。
大学との共同研究が始まったのと同時に、新人の教育も任されてしまった私だったが。
この新人が今時珍しいくらいよく出来た子で、言った事をすいすい覚えてくれるので、懸念されるようなことは何もなかった。
全てが順調、ノープロブレムだ。
「ふーん、なら安心、だな。」
7階にランプが着くと、扉が開く直前に、東海林が前を向きながら、そう言った。
珍しく今日は、途中の階で停まらなかったな、とラッキーな気持ちに浸ってエレベータを降りた。
「で?」
斜め右を歩く彼から落ちてきた疑問符の意味がわからなくて、思わず東海林の姿に目をやるが、その横顔はいつも通りに見える。
「?何がですか?」
研究・開発チームのオフィスのドアの前、こちらをちらっと見た東海林がー
「新人くんのことじゃないなら、何を悩んでたんだ?」
そう言い残して、中に入っていった。