風が、吹いた

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今日は、よく晴れている。




澄み渡る空を見ながら、そう思った。






研究所に行く前に、会社の屋上に寄って空を眺めている。




―悩んでいた、か。




さっき言われた東海林の言葉を思い出す。



風景に背を向けて、手すりに寄り掛かった。13階建てのビルから見下ろす景色は、高校の時によく見たそれではなくて、好きじゃなかった。




確かに、自分は迷っている。悩んでいる。




はぁ、と溜息を小さく吐いた。




正直、気持ちを持て余していた。



浅尾の気持ちに、応えたいと思う。



だけど、それは、今までの自分に対する背信行為だ。


再び、はーと深く息を吐いた。






「また、屋上か。好きだな、倉本は。」






昨日のように、東海林が屋上の扉から声を掛けてきた。




「東海林さん…」




特に、佇まいを直すこともせずに、ぼんやりと彼が屋上に入るのを見つめた。

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