風が、吹いた
人間観察開始
キーンコーンカーンコーン
予鈴が鳴る。
今朝は早く学校に着いた。
日曜日にしっかりと気持ちを落ち着けた私は、考えもきちんと整理して、椎名孝一という人間がどういう存在なのかを、確認することに決めたのだ。
というわけで、朝早く家を出て、窓際の自分の席に座って、そこから見える登校風景を観察するフリをして、彼が来るのを待っている。
しかし、一向にやってこない。
ざわついていた教室内も、それそれが席に着き始め、静かになりつつある。
―休みかな。
頬杖をしながら、その可能性もあることに気づく。そもそも自分より早くに学校に来てしまっているとすれば、とっくにアウトだ。
「ホームルームはじめるぞー」
半分諦めかけた所で、担任の間延びした声が響いた。
その時だった。
―来た。
自転車に乗りながら、急ぐ気配もなく、ゆっくりとだるそうに、椎名先輩が門を通り過ぎる。
色素の薄いその髪が、陽の光で透けて、タイミングよく吹いた風が、彼のそれをきれいに揺らした。