風が、吹いた
日曜日の昼下がり。
浅尾の職場に一番近い駅で、吉井が彼を呼び出した。
休日出勤していた彼は、ちょうど手が空くだろうと思われる時間を指定し、それでいいならと会う事を承諾した。
そして今に至っている。
手近なカフェの前で、立ち止まった吉井。
「ここでいいや」
中に入ったのに続いて、浅尾もこっそり小さく溜息を吐いてから店内に足を運んだ。
軽く冷房が入っている。
「少し、寒いなぁ。」
腕をさすりながら、ホットコーヒーふたつ、と彼女が注文して、店員が背中を向けたのを見届けてから。
「で、何の用?」
浅尾が切り出す。
途端に、吉井が真剣な顔つきになる。
「これを、見て欲しいと思って、持ってきたの。」
彼女は、おもむろにバックから一冊の雑誌を出してテーブルに広げた。
「…これがどうしたっていうんだよ。ただの週刊誌じゃねぇか。」
見出しは、【イケメン御曹司、社長令嬢とついに結婚か!?】となっている。
「よく見てみて」
吉井が何を言いたいのか、わからず、受け取った雑誌を面倒臭そうにパラパラと捲った。
余程の著名人なのか、特集のように、何ページにも亘ってそれ関係の記事が続いている。
記事の終わりに、写真がでかでかと掲載されていた。