風が、吹いた

「どうすればいいか、迷って…」




吉井が目を、窓の外に向けたまま、肩を落とした。




「どうって、どういうことだよ」




その横顔に浅尾が訊く。




「くらもっちゃんに、言おうか、言わないか…」




「ふざけんな」




怒気を含んだ低い声に驚いて、彼を見た。




「この記事の内容、わかってんだろ?あいつに言って、どうするんだよ。8年間、想い続けてきた相手がここにいたぞ、結婚するぞってか」




吐き捨てるように言った。





「そんなつもりじゃ…」




バン、と雑誌をテーブルに叩きつけて、浅尾が立ち上がった。



周囲の客たちの視線が、集中する。




「…俺は、言うつもりはない。倉本を泣かせるだけだ。…お前も、あいつの心をこれ以上かき乱さないでやってくれ。」




低く、哀しげに、彼が懇願した。



何も言えない吉井に、浅尾は続ける。




「その男に、俺は言ったから。倉本を泣かしたら、もらうって。」




財布から、札をすっとテーブルに出しー




「もう、いいだろ。」




最後にそう呟くと、彼は店を出て行った。

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