風が、吹いた
残された吉井は、暫く放心状態になっていたが、やがて気づいたようにテーブルの上に置かれた雑誌を手に取った。
パラ、パラと捲って、目的の記事に辿り着く。
―もう、いいだろ
浅尾が去り際に残した言葉は、恐らく、今の話し合いについてではない、と気づいていた。
彼は、過去に向けて、言ったのだ。
大事な彼女が、長い間引き摺って、手放そうとしなかった苦しい恋に向けて、言ったのだ。
もう、苦しまなくていいだろ。と。
それを、悪戯に彼女に思い出させるような行為は、しない方がいい。
そんなことは、吉井もよくわかっていた。
ただ、このまま隠しておくことが、果たして本当に正しいことなのか、それとも、隠さずに話して彼女に根底から諦めさせるように説得した方が最善なのか、判断しかねた。
けれど。
浅尾の言うように、隠しておくことにしたとして。
もしも、彼と彼女がどこかで逢うことがあったら。
その時、傷つくのは、誰なのか。
答えは風に吹かれて、わからない。