風が、吹いた
下された決断
空が夕焼けに染まり、赤から黒へ、夜の衣装に替わろうとしている。
フリュイは、タルトのケーキが有名な紅茶専門店で、地元から電車で2駅乗った所にある。
自転車があれば20分くらいで着くし、歩いて頑張れないこともない。
「突然会いたいって、浅尾、どうしたんだろう。」
ぶつぶつと呟きながら、返事を出さなければいけない瞬間が迫っていることに、気づかないふりをした。
頭の隅で、下を向いて歩くようになったのは、いつからだったろう、と考えながら。
周囲を見渡すことがなくとも、川の匂いは川辺を思い出させるし、秋めいた風は、懐かしい時間を連想させる。
昔聴いた音楽が、その頃の想いを呼び覚ますように、この街には、自分の抑え切れない想いを、目覚めさせてしまうものばかりある。
佐伯さんの所で飲んだコーヒーは、少し苦くて、自分の本当の感情を吐き出してしまいそうになるほど、私を弱くさせた。
その全てを、終わらせなくては。
ここから、私も、居なくなろう。