風が、吹いた
通行人がいなくて良かったと、呼吸を整えながら思った。
「中、入るか」
「うん」
照れたように笑う彼に、今度こそ私は確実に笑顔で頷いた。
店内は、少し混雑していたが、待つことなく入ることができた。
案内されたテーブルの窓際には植木鉢がきれいに並べられている。
上着を脱いでハンガーに掛けると、かわいらしい絵がたくさんちりばめられたメニューを取って、わくわくしながら選び始める。
ふと、視線を感じて、メニューから目を離すと、浅尾が笑ってこちらを見ているのとぶつかった。
「…な、何よ。見ないでよ」
頬杖をつきながら、呆れたようにも見えるその笑いに、頬を膨らませながら抗議する。
「別に」
にやっとしただけで、浅尾はそれ以上何も言わず、窓の外に目を向けた。
「浅尾も選びなさいよー。今日のおすすめはねぇー、イチジクのタルト!でも、私は桃が良いなぁ。あ、洋梨も捨てがたい…」
一人でわぁわぁと騒ぎながら、またしてもメニューに夢中になる。
また浅尾がくくくと笑いを溢しているのに気づいたけど、もう知らん振りを決め込んだ。