風が、吹いた
指差された浅尾は一瞬、きょとんとして。
「あぁ、俺、甘いの苦手なんだよね」
と答えた。
今度はこっちがきょとんとする番だった。
「え?浅尾、嫌いなの?」
そう言われてみれば、浅尾と甘いものってイメージが合わない。
それどころか、この可愛いお店と、浅尾も不釣り合いだ。
自分のテンションが上がりすぎて、全く気づかなかった。
「紅茶は?ここ、紅茶専門店なのに。」
こんなに素敵なものばかりのお店なのに、浅尾が苦手なことがなんだかかわいそうに思えてきて、心痛な面持ちで彼に尋ねる。
「そんな人を憐れむような目で見るな。メニューをちらっと見たら、コーヒーがあったから頼んだだけだよ。昼に飲み損ねてな。」
ここで、やっと私は首を傾げる。
「じゃ、何でここに指定したの?」
浅尾の会社からなら、場所は選ぼうと思えばいくらでもあった筈だった。
「倉本は、覚えてないの?」
困ったように、私を見つめる彼に、私はさらに首を傾げる。