風が、吹いた
「何を?」
ちょうど尋ね返した所で、注文したものが運ばれてきたために、私の思考は吹っ飛んだ。
「うわぁ。宝石みたい」
白い皿に並べられたタルトには、零れ落ちそうなほどに、ブルーベリー、白桃、マスカットが載せられていて、透明なジュレがキラキラとそれらを輝かせていた。
「いただきます」
タルトにフォークを刺すと、サクっと音がした。
口に含んだ時のフルーツとタルトと、そして全てを包括するカスタードクリームの美味しさに悶える。
バニラビーンズがちょうど良いくらいに、ふわっと香る。
「おいしいー!」
完璧に、浅尾の存在を忘れた私。
「おい、俺を、忘れんなよ?」
浅尾の笑いを含んだ声が、私を現実に引き戻した。
「…滅相もございません。忘れてなんか…いません」
「なんだよ、その間の沈黙はよ」
ははっと笑った彼は、コーヒーを一口啜り。
「ここ、高校の時に話題になってたの、覚えてる?」
と、訊いてきた。
そういえば、吉井ができたばっかのタルトのお店に行かないかと、私をひっきりなしに誘ってくれていた。
甘いものが大好きな私は、確かに行きたかったのだけど。