風が、吹いた




「何を?」




ちょうど尋ね返した所で、注文したものが運ばれてきたために、私の思考は吹っ飛んだ。




「うわぁ。宝石みたい」




白い皿に並べられたタルトには、零れ落ちそうなほどに、ブルーベリー、白桃、マスカットが載せられていて、透明なジュレがキラキラとそれらを輝かせていた。




「いただきます」




タルトにフォークを刺すと、サクっと音がした。



口に含んだ時のフルーツとタルトと、そして全てを包括するカスタードクリームの美味しさに悶える。



バニラビーンズがちょうど良いくらいに、ふわっと香る。




「おいしいー!」




完璧に、浅尾の存在を忘れた私。




「おい、俺を、忘れんなよ?」




浅尾の笑いを含んだ声が、私を現実に引き戻した。




「…滅相もございません。忘れてなんか…いません」



「なんだよ、その間の沈黙はよ」




ははっと笑った彼は、コーヒーを一口啜り。




「ここ、高校の時に話題になってたの、覚えてる?」



と、訊いてきた。



そういえば、吉井ができたばっかのタルトのお店に行かないかと、私をひっきりなしに誘ってくれていた。


甘いものが大好きな私は、確かに行きたかったのだけど。
< 384 / 599 >

この作品をシェア

pagetop