風が、吹いた
「バイトと勉強で忙しくて行けないって、断ってた」
そう言うと、浅尾はカップをソーサーに戻した。
「あれってここのことだったんだ…え、じゃあ、今回ここにって言ったのは…」
私も、フォークをタルトに突き刺したまま、言いかける。
「あれから、行ったかもしれないし、今更かなとは思ったんだけど。もしかしたら、喜ぶかなって思って」
私の声にかぶせるように言うと、照れたように、目を逸らした。
「そんなに喜ぶとは思わなかったから、笑っちゃったけどね」
彼はもう一度私を見て、ふっと優しく笑った。
「あ、ありがとう…場所は知ってて気になってはいたけど、入ったのは初めて。」
急に恥ずかしくなって、小さく呟く。
「ま、急に呼び出したのは、早く返事が訊きたくなったから、だけど」
ふっと、浅尾が息を吐いた。
お互い働いているせいか、連絡先は交換し合っているものの、中々会うことができずにいた。
もちろん、気持ちの整理をつけたくて、私が先延ばしにしていたのが原因のひとつでもある。
「ごめんね。待たせて」
タルトをそのままに、俯いて謝る私に。
「もう、いいから。好きなんでしょ?食べなよ」
もう一度、彼は優しく笑った。