風が、吹いた
家まで送ってもらってから、また次に会う約束をした。
「あの、さ。倉本は、雑誌とか、読む?」
別れ際に、浅尾が唐突に訊ねる。
「へ?」
予想していないことだったので、間抜けな声がでてしまう。
「雑誌?あんまり読まないなぁ。家にテレビもないし。私って芸能界とか疎いんだよね」
意図がわからないまま、とりあえず答えると。
「そうだよな。実は俺もなんだよなー。仕事上ネットは使うけど、テレビ見たり、雑誌読んだりなんて暇ないもんな」
浅尾も、大したことではないように同意したので、私も深く考えるのを止めた。
「浅尾も仕事、忙しそうだね。今日も行ってきた帰りだったんでしょ。早く休んだ方がいいよ。」
それ、とパソコンを指すと頷く。
「そうだな。またな。」
私が中に入るまで、浅尾は見ていてくれて、部屋の窓から覗くと、駅に向かう後ろ姿が見えた。
浅尾の事を好きになれれば、それで全てきっと上手くいく。
そんな気がした。
諦めたことは、今までも沢山あったから。
両親に置いていかれた時だって、私は我慢できたから。
同じだよね?
ただ。
貴方の時だけ、私は、
『待って』
と、言えなかったけれど。
引き留めることすら、できなかった。
それだけが、
心残りだよ。