風が、吹いた

「あ、いえ。どうかお気になさらずに。顔を上げてください。」




真っ白な生地に、花柄のレースをあしらったワンピース、白い肌にレッド系の口紅がよく映える。



気品溢れる微笑みは、花が咲いたようで、彼女の美しさを強調していた。




「紹介しますね。この方、森 明日香さん。で、こっちが、私の先輩でしかもかなり優秀な倉本さんです。」




加賀美の過剰な褒め言葉にいやいやと頭を振る。



お互い軽く会釈した。




「で、どうして森さんがここにいらっしゃったかと言いますと」



説明しながら、加賀美が私の分もコーヒーを淹れてくれようとする手を制して、座らせた。




「自分でやるからいいよ」



すみません、と加賀美が小さく頭を下げる。




「大分前に、倉本さんと高校の時の話、したの覚えてます?」




コーヒーの粉を掬う手が、止まる。




「…覚えてるよ」




平静を装って、頷いた。2人には背を向けている状態なので、顔は見えない筈だ。




「で、ほら。途中で転校しちゃった人の名前が誰だか出てこなかったでしょう。あの後、気になっちゃって。友達に電話して聞いてみたんです。そしたら、婚約者が何と同級生のお姉さんだったんです。さらに…」



意気込んで話す加賀美を、小鳥のさえずりのような声が遮った。




「尚子ちゃん、その続きは、私が話しても良いかしら?」


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