風が、吹いた
「これ、夜に撮られた写真でしょ。画像も粗いから、まず、ちょっと2人の距離感が判断しにくい。それから男の方が奥になってて、女の方が手前で、なんていうか、くっついてる。だけど、このアングルだと、周囲に他の人がいたかもわかんないし本当に寄り添っていたかどうか確実とは言えない。つまり…」
鈴木の言葉を、吉井が代わりに引き継ぐ。
「意図的に、作られた写真に見えなくもない」
鈴木が頷く。
「だから、他社はこれに手をつけないで確実になるまで待ってるってワケ。確かに嘉納と森は仕事の面ではお互いが必要な関係ではある。疑わしいけれど、証拠が不十分。今はこんな所、かな。それ以上はさすがに言えない。」
苦々しい表情の鈴木を前にして、吉井は伝票を持って、立ち上がる。
「これで、十分よ。ありがとう。今度、この借りは返すから、絶対。」
彼女はそう言って、満足そうに笑った。