風が、吹いた
「倉本さん?居ますよ。代わります?え、えぇ。わかりました。じゃ、伝えておきます。はーい。では。」
電話を切ると、加賀美がくるりとこちらを向く。
「東海林さん、今日大学に泊り込むから、倉本さんは帰っていいって伝えてくれって。ちなみに私も。台風がひどくなる前にって。」
そこまで言うと、一旦言葉を切って、窓の外を見る。
「…ちょっと、遅いですよね。東海林さん、タイミング悪すぎ。」
憤然たる面持ちで、毒吐いた。
加賀美が、車を迎えに来させるので一緒にと、申し出てくれたのをやんわりと断って、タクシーで帰ることにした。
研究所の戸締りをして、それぞれ迎えを待っていると、先にタクシーが着たので、加賀美に見送られる形でそれに乗った。
「ちょっと、遠いんですけど」
行き先を伝えると、運転手がうーんと悩むように土砂降りの外を睨む。
「かなりひどい嵐だから、道路が混んでるんですよね。ちょっと回り道しますけど、それでも良いですか。」
「大丈夫です、お願いします。」
私が頷くと同時に、発車した。
窓を見つめていると、車内の心地よい温風が眠気を催させ、次第に私はうつらうつらし始める。