風が、吹いた
「うん。…って、そうじゃないだろー!」
ノリツッコミしている。
「もう、自分勝手なことしないでよね!?浅尾にも一応連絡しといたから。そのうち来ると思うよ!」
「ん。ごめん。ありがとう。」
暖かい毛布にくるまりながら、感謝すると、吉井がやっと立ち上がった。
「どうして、海なんかで降りたの?」
洗面器の水を台所で入れ替えながら、尋ねる。
「…人が見えたから」
「は?」
「見間違いだったんだけど。助けを求めてたら困るなって。」
「ふーん」
釈然としていないようだったが、それ以上吉井は聞いてこなかった。
本当のことは言えなかった。
彼が、居たと思ったから、なんて。
あの海に椎名先輩と行った事は、誰にも言っていない。
「…浅尾と、上手くやってる?」
彼女は、玄米茶の香りを散らしながら、急須にお湯を注ぐ。
「うん。仕事とかお互いあるから、しょっちゅうは会えないけど…」
吉井とは仕事があっても、しょっちゅう会っているが。それは彼女が押し掛け女房だからこそ、成立している。
「…なら、いいんだけど」
湯呑みにお茶を注ぎながら、やっと聞き取れる位の声で呟いた。