風が、吹いた
「ごめん。帰る」
弾かれたように、私は出口に向かって走った。
全てが、ひとつの線に繋がる。
「え、倉本さん!?」
加賀美が呼んでいるけれど、この場には居られない。
馬鹿だ。
自分は馬鹿だ。
ずっと、逢える瞬間を待っていた。
どんなに願っても夢の中ですら逢えない自分は、想像の中で貴方との再会を思い描いていた。
だけど、間違いなく時間は経ってしまったのだ。
私が貴方を忘れようとしたように。
貴方が、私を忘れてもおかしくないくらいに。
次に逢う時は、きっと笑顔で逢える筈だと勝手に思い込んでいた。
嬉しさから泣いてしまっても、きっと笑い合えると信じていた。
なのに。
恋焦がれた貴方は、
知らない人みたいだった。
そして、あの人と一緒になる。
「っいたっ」
ホテルを出た所で、慣れないヒールに足がもつれて転んだ。
膝にじわりと血が滲む。
それを見つめながら、自分に言い聞かせる。
―泣かない。もう泣く価値なんてない。
唇をぐっと噛みしめ、脱いだ靴を両手に持つと、裸足でとぼとぼと歩き出す。