風が、吹いた
大好きだった彼の、さらさらと揺れる色素の薄い髪は、最後に見た時よりも、少し長くなっていて。
大好きだった彼の、優しい声は、あの頃と変わらなかった。
大好きだった彼の、茶色い目は、冷たくて知らない目をしてた。
あとは、きちんと見れなかった。
もっと、よく目に焼き付けておけば良かったかな。
「うっ…ひっ…」
自分の決心を裏切って、頬を涙が伝う。
泣いちゃ、駄目だ。
泣いたら、いけない。
だって、私にはもうそんな価値はない。
シンデレラは、幸せになる筈だったのに。
ルールを破ったから。
だから、せめて、この気持ちだけは。
絶対に、芽生えさせてはいけないの。
―『シンデレラにとって、王子は最高の相手なんだ。元に戻れようが戻れまいが、絶対にもう一度、欲しくなる』
あの日、囁かれた言葉は、鎖の様に、私の心をがんじがらめに縛って、
そしてー
心ごと、千切った。