風が、吹いた
「私は、憶測だけで物を言うのは好きじゃないんですが。恐らく、牽制ですよね?そうすると次の疑問が涌いてくる。結婚を目前に控えた人が、果たしてそんなことをするだろうか?」
ここまで言うと、加賀美はにっこりと微笑む。
「貴女、本当に結婚するんですか?」
バシャッ
周囲の人間から、きゃーっと悲鳴が上がり、ボーイが慌ててタオルを持って来た。
赤い雫が、加賀美の髪からぽたぽたと垂れる。
怒りで頬を真っ赤にさせた森に、加賀美は笑顔を崩さない。
「これで、貴女は私だけじゃなく、加賀美グループ全てを敵に回したことになりましたよ。一家の長女ともあろう人間が、一時の感情で動いてしまうようでは、森グループの先も見えたようですね?ま、私はさらさら親の脛をかじるような真似をする気はありませんが、加賀美の人間は黙っていないでしょうね。」