風が、吹いた



「おい、明日香、何をやっているんだ!」




血相を変えて、森氏が奥から走ってくるのが見えた。



「…では、私はこれで。失礼します」




真っ白な絹のハンカチで顔を軽く拭うと、何事もなかったように、加賀美は会場を後にした。




「嘉納財閥は一体何を考えてる?」




愛車のオロチに乗り込み、エンジンをかけながら呟く。



マスコミには色々言われているようだが、嘉納財閥は依然トップを走っている筈だ。




三下の森グループなんかとつるんで得な要素はない。



いや、もうひとつ、あったか。嘉納とトップを争っている財閥が。




それが、志井名だ。




「志井名孝一」




名前が変わり、今は嘉納孝一、か。




二大財閥の抱える問題は、どうやら噂通りらしい。
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