風が、吹いた
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研究所に着くと、入り口で加賀美が倉本を待ち構えていた。
「おはよう、加賀美。この間は突然帰っちゃってごめんね。」
いつも通りの彼女に、加賀美は少し驚く。
あれから、何度か電話を掛けてみたが、倉本の携帯は通じないままだった。
森明日香の様子から見ると、嘉納と倉本は親しい仲の筈だ。
あんな場面を見せつけられたのだ。意気消沈しているとばかり思っていたのに。
「いや、大丈夫です。でも心配で電話、何回か、掛けたんですけど…」
「あ、充電するの忘れてたから、電源切れちゃってたかも。重ね重ねごめん。」
申し訳なさそうに答えると、倉本は肩に提げた紙袋を加賀美に差し出した。
「これ、お借りしてた服、返すね。クリーニングにも出してあるから。本当にありがとう」
「え、これは、倉本さんにあげたんですよ。」
慌てて、反射的に受け取ろうとした手を引っ込めた。
「こんな高いの、受け取れないよー。それにこんなにかわいい色の服は、私には似合わないし」
倉本は、眉を下げて笑んだ。
「そんなことないです。すごい、似合ってましたよ。倉本さん。」
本当の事を言ったのに、彼女は、お世辞はいいです、と信じない。
「…嘉納さんも、そう思ったはずです。」
本題に入ろうと、話を振った。
「…嘉納って、誰?」
目の前の彼女が首を傾げた。