風が、吹いた




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19時。



浅尾と吉井は、都筑に来ていた。



2人共、いくつかの雑誌を前に、難しい顔をして黙っている。



騒がしい他の席と、明らかに大きく雰囲気が異なっている所為か、店主も奥さんも、仕事の切れ目に、心配そうに見つめていた。



やがて、浅尾がふっと息を吐く。




「しょうがねーよな。ここまででっかくなったら、隠しておくよりも、潔く言ったほうが、いいよな。」




諦めたような物言いだった。




「でも、どうやって言えばいいかな。気づくまで待った方が良くない?」




吉井が頬杖をつく。




「気づいた時に、どうする?あいつ、ひとりだったらどうなるかわかんねぇぞ」



浅尾が広がった雑誌をパタパタと閉じた。




「そーだよねー。浅尾にしちゃ、まともなこというじゃない」




ふんっと鼻で吉井が笑った。




「なんだよ、それ。でも、まー、どうやって切り出せば一番あいつが傷つかないか、だよなぁ。」




うーん、と浅尾が腕を組む。




「傷つかないわけないわよ。とにかくありのままを話して、沢山泣けば、もしかして案外ケロリとするかもよ」




「…それも、そうかな。」



「そうそう、重く考えないで。どうせ考えたって仕方ないんだし。そうと決まったら、くらもっちゃんを呼び出そう。」




吉井が手に持っていた携帯を耳に当てた。




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