風が、吹いた
「お待たせー。先に2人が揃ってるって変な感じ」
ちょうど帰り道だったという倉本は、すぐに都筑にやって来た。
「あれ、全然ビール飲んでないじゃん。泡が消えて美味しくなさそう。吉井なんか烏龍茶?あ、ご主人、私には梅酒サワーお願いします。」
躊躇うことなく、浅尾の隣に座るとさっさと注文した。
あいよっと店主の軽快な返事がする。
倉本の機嫌の良さに、がっかりする。
これから、沢山泣いてもらうことになるのに―。
嫌な汗が、2人の背中を伝った。
「どうしたの?ふたりとも暗い顔して。」
何も知らない彼女が、きょとんとした顔で訊ねる。
吉井の視線が、浅尾に、言え、と促す。
その指令を感じ取った浅尾は、心底嫌そうな視線を吉井にだけ向けた。
やがて、ぼそりと呟く。
「あの、な。倉本。気を落ち着けて、聞いて欲しいんだけど…」
今度は浅尾が、向かいに座る吉井に、目で訴えた。
「えー、何なの?こわいなぁ」
倉本は、無邪気に怖がるふりをしている。
吉井はおもむろに、鞄から、さっき見ていた雑誌のひとつを彼女の前に広げて見せた。