風が、吹いた

それくらい異常で、ありえないことだった。



彼女が、彼を忘れるなんてこと。



しかし目の当たりにしてしまった今、この現実を、どう受け止めたらいいのか、2人には正直わからなかった。



彼女にとって、どれほど大切な記憶なのか、見ていた人間なら知っているだろう。



はっきりとした別れのないまま、淡い期待だけを抱かされて、ただただ、待ちわびて焦がれていた彼女の恋のことを。



『さよなら』と、言われていた所で、彼女は待っただろうけれど。



それくらい、強い想いを。


このまま、なかったことにして、進ませてあげたら、いいのだろうか。



そうしたら、彼女は真っ直ぐに胸を張って歩いて、いつしか幸せを掴むのだろうか。



二度と、後ろを振り返ることなくー






それぞれの見上げた、秋の夜空に浮かぶ月は、いつの間にか完全に雲に隠されていた。
< 435 / 599 >

この作品をシェア

pagetop