風が、吹いた
最強コンビ

秋晴れの、穏やかな昼下がり。




「え?」




浅尾は、目の前の彼女が言った言葉に、思わず、見ていたメニューから顔を上げた。




「だから、フルーツミックスにするって言ったの」




何回も言ったでしょ、と倉本が少しむくれた顔をする。




「いや、うん…でも、倉本はここのブレンドコーヒー、好きじゃなかったっけ。」




彼女は余り好んでフレッシュジュースを頼むことはしない。冒険するタイプでもない。



むしろ、店ごとにお気に入りを作っていたくらい、毎回同じ珈琲か紅茶を頼む。



「うーん。前は飲めてたんだけど…最近は苦手になったの。あんまり好きじゃなくなっちゃって。」




なんでだろう、と思い悩む彼女に、あの日の光景が脳裏に浮かぶ。





―椎名先輩って、誰?




倉本がそう言った時、最初は悪趣味な冗談かと思った。




―何とぼけてんだよ。椎名孝一だろ。




―そうだよ、くらもっちゃん冗談はやめてよ、ちゃんと現実見よう?いっぱい泣いてもいいように、胸くらいは貸すからさ。




2人で言い聞かせても、倉本の表情は変わらなかった。




―知らない。そんな人。2人こそ、何言ってるの?




少し、怯えたように倉本は首を振る。




―いや、だって椎名…




―知らない!




尚も言おうとすると、彼女は小さく叫んだ。


何かを、振り払おうとするみたいに。
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