風が、吹いた



ふぅ、と気持ちを落ち着けるように息を吐く。



向かいの彼女に目を向けると、いつの間にか運ばれてきていた、飲みにくそうでどろっとした液体を眺めている。




「ミックス…うーん」




ストローでぐるぐるとかき混ぜて口をつけた。



複雑な表情をしている。



そんな姿も微笑ましくて、つい見入ってしまった。



本当に、惚れた方の負けっていうのは、こういうことなんだろう、と思う。



何をしていても、彼女を想う気持ちは変わらない。



愛おしい彼女のその行為を、言葉にするなら。




自分の中から消えてしまったものをきれいに掃除して、ぽっかりと空いたその部分に、別の物を入れる作業。





たとえ、彼女自身がそれに気づいていなくても。





そう考えると、無性に悲しくなった。




想いは募るばかりなのに。



彼女に触れたいのに。




どうしたらいいかわからない自分は、結局あの頃と同じように動けないまま、いまだに彼女を見つめているだけだった。

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