風が、吹いた
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「…どうぞ。」
茶托の上に、煎茶の入った客用の湯呑み茶碗を置いた。
「これはどうも、ご丁寧に、ありがとうございます。」
目の前の彼女は、深々とお辞儀をする。育ちがいいんだろう、ということは一目でわかった。
11月に入り、日も大分短くなって、近くの公園で遊ぶ子供たちの声も遠のいた頃。
彼女はやって来た。
とりあえず空いていた会議室に、客人を案内し茶を出したところで、吉井はその向かいの椅子に腰掛ける。
「それで、ご用件は何でしょうか。ええと…」
「加賀美尚子です。」
「あ、そうでしたね。すみません。加賀美さん。」
全く知らない謎の美少女が、一体どうして勤め先に自分を訪ねてきたのか、吉井には皆目見当がつかなかった。