風が、吹いた
「お忙しい所、わざわざ押しかけてしまい、申し訳ありません。」
上品な動作で、お茶を口に含んで茶托に戻すと、彼女は謝った。
「私、呉間化成研究所で職員として倉本さんの下、働かせていただいております。」
今一番心にひっかかっている人物の名前に、吉井はすぐさま反応する。
「くらもっちゃんの?」
加賀美は頷きながら、続けた。
「お仕事をお邪魔したくありませんので、手短に済ませるため単刀直入に伺います。倉本さんと、嘉納…もとい志井名さんは、一体どういったご関係だったのでしょうか。」
途端、吉井が加賀美を睨みつける。
「くらもっちゃんとその人のことで、加賀美さんに言わなくちゃならないことなんて、ありません。」