風が、吹いた
加賀美が考える仕草をしてからー
「言い方が、悪かったかもしれませんね。吉井さん、貴女は倉本さんと親しいご友人ですよね?」
と訊ねた。
「はい。確かにそうですが?」
喧嘩腰の吉井に、加賀美は苦笑し、その後ふと真顔に戻った。
「では、最近の倉本さんの異変にも、お気づきのはずです。」
吉井の目つきが、鋭いものから驚きに変わる。
それを確認してから、加賀美は言った。
「私は、倉本さんを傷つけようとは思っていません。むしろ逆です。」
背筋をピン、と伸ばして彼女は続ける。
「どうです?何も私だって、貴女からただ教えてもらおうとは思っていません。恐らく異変のきっかけは、私が貴女にお話できることもあるでしょう。情報交換という形ではいかがですか。」
「または…」
顎を手で掴み、一瞬視線を落とすと、再度吉井を見た。
「手を組む、という選択肢もありでしょう。敵は意外と大きい。」
不敵な笑みを湛えた。
「…くらもっちゃんを、助けてあげられると?」
ややあってから、吉井は確認するように問う。
「それはわかりませんが…謎を解き明かすことは、できると思います。」
吉井は、暗闇に微かな希望という光を見い出した気がした。
倉本の記憶が抜け落ちた今、自分にできることが何なのかわからず、途方に暮れていたからだ。