風が、吹いた
しかし。
「それは、貴女になんのメリットがあるんですか」
加賀美が何を考えているのか、吉井にはいまいちわからない。
「何も。私が動く理由をあげるとすれば、倉本さんを尊敬しているから、というのが一番のワケです。あとは…今回のことで少なからず良心の呵責を感じているからかもしれません。」
「どういうことですか」
吉井は責めるように見つめる。
「私のせいで森明日香と会わせてしまったからです。」
え、と驚きを溢す吉井に加賀美は言う。
「理由はそれだけで十分です。さ、どうしますか。」
どうやら、彼女は嘘をついてはいなさそうだ。
そして、何かを知っている。
よし、と心の中で自分に声を掛ける。
「わかりました。いいでしょう。」
何よりも、真実が、知りたかった。
彼は一体何者なのか。
どうして、彼女の前から居なくなったのか。
くらもっちゃんの中で消えた記憶は、消えたと思っているだけで、きっと奥深くに仕舞われただけ。
いつしか思い出すかもしれないその時に。
きっと、伝えてあげようと決心しながら、吉井は加賀美の差し出した手を取った。