風が、吹いた
額に、ちゅっと音をたてて触れて、離れていった唇の感触。
え、と目を開けると、浅尾は笑って。
「またな」
手を振って、元来た道を戻っていってしまう。
おでこを手で隠しながら、その後姿を目で追う。
背を向ける寸前の彼の顔は、もう笑みを消していて、それに気づいた彼女の胸はざわつき、痛む。
「…どうして、嫌だと思ったんだろう。」
ぼそり、呟くと、カンカンと音をたてて階段を上った。
いつも家に入るまで見ていてくれる彼が、今日はそうしなかったことに、自分のしでかしてしまったことへの罪悪感が募った。