風が、吹いた
「はは…」
夜道を歩きながら、浅尾は独り、自嘲気味に笑う。
「は…」
ピタリ、と道の真ん中で立ち止まると、空を仰いだ。
「やっぱり、俺はどうやっても、2番なんだな。」
さっきの彼女の顔が、脳裏に浮かぶ。
好きな奴に対する顔じゃ、ない。
ぎゅっと瞑った目は、堪えるみたいに力が籠もっていて。
たとえ、あいつが記憶の中から、いなくなっても。
たとえ、俺の方が、最初に出逢っていても。
俺の方が最初に、倉本の友達になっていたとしても。
きっと、最初に倉本を笑わせるのは、あいつなんだ。
高校の頃の悔しかった思いが、苦く甦る。
初めて、見た、倉本の笑った、顔。
ずっと見たかった、彼女の笑顔。
どうしても、見れなかったもの。
どうしても、叶わなかったこと。
でも、願っていたもの。
それを、いとも簡単に。
あいつのお陰で、彼女は沢山の表情を、見せるようになった。