風が、吹いた
男の正体
―9年前
3月。
川の近くに咲き誇る桜がチラチラと舞う。
男が一人。その物悲しさに、目を奪われていた。
この先待ち受ける、絶対の『道』に、進まなくてはいけない自分と重なるように見えたからだ。
しかし、一瞬の内に、そう思った自分を嘲笑う。
蕾すらつけることのできない自分が、桜と同等と思うなど、おこがましいか―と。
ふと、視線を下げた先、桜吹雪の間に見える人影に気づいた。
芝生の上に、横になっている人。
それは、倒れているようにも見えて。
ひやりと背筋に冷たいものを感じ、慌てて近くに駆け寄った。
ひらひら
舞う桜と、
その中で、横たわる少女は、
息を呑むほど、美しく。
幻のように、儚く自分の目に映った。