風が、吹いた
すうすうという規則正しい寝息が微かに聞こえ、はっと我に返った。
「…なんだ。寝てるのか…」
ほっと安心して、踵を返し、帰ろうとする。
いや、でも、しかし。
無防備すぎないか?
河川敷は人もよく通るし、皆が皆良い人間ばかりではないのに。
思い直して、足を止め、まじまじと観察してみる。
冷静になってみると、彼女は制服を着ている。
背格好からしても、中学生のようだ。
しかし、この近辺の制服ではない。
つまりは、家からは近くない筈。
「知らない土地で、よく寝れるな…」
ある意味感心しながら、少女から少し間隔をとって、芝生に座り込む。
傍に放り投げてある鞄に呆れつつ、彼女に再度目をやった。
どこか、哀しそうな表情をしながら眠るのだな、と思った。
辛い夢でも見ているのだろうか。
片膝を立てて、そこに肘をつきながら、目を奪われたままにしていた。
なんとなく、離れがたくて。
放っておいてもいい筈なのだが、何故かそうする事ができなかった。