風が、吹いた
シャラシャラと流れるせせらぎの音。
雪のように降る桜の花びら。
暖かい春の陽射し。
一枚、また一枚と、彼女の髪や制服、腕に、桜が落ちる。
自分を取り巻く、静かで穏やかな空気に、荒んでいた気持ちが、落ち着いていくように感じた。
と。
見つめる先の彼女の長い睫毛から、きらりと光るものが揺れる。
泣いてるのか?
一瞬躊躇したものの、自分で開けた彼女との距離を、そっと縮める。
少し垂れた眉が、苦しそうに見えた。
ころがり落ちようとする一粒の涙が、彼女の頬に痕をつけてしまったら。
起きて、それを見た彼女は、さらに悲しくなるかもしれない。
夢のことを、現実にまで、引っ張る必要はないから。
起こさないように慎重に、優しく、彼女の涙を指の腹で掬った。
表情が、微かに和らぐ。
「…ん」
彼女の気づいたような声。