風が、吹いた
「…んー、よく寝た…」
大きく伸びをしてから、彼女はがばっと起き上がった。
きょろきょろと周りを見渡すと、自分の鞄を見つけて肩に掛ける。
ぱんぱん、とスカートについた草を払い落とし、颯爽と通りへ歩いていった。
「危なかった」
俺は、彼女の寝ていた傍の桜の幹の後ろで、胸を撫で下ろした。
柄でもない。
彼女は、どこかの誰かで、別に自分と何の関係もない。
そしてこの先だって、別に関わることもない。
なんとなく、彼女の後ろ姿を目で追ってしまったのはきっと。
この桜の香りのせい。
ふわりと漂う。
甘い香りのせいだ。