風が、吹いた

そして、あの日。



雨が降って、昼には止んだ日。



少し、寒い日。



数時間後に、カルモで確実に彼女と顔を合わす日でもあった。




昼休みに屋上へと向かう俺は、少しの悪戯心で、扉を開けておく。



いつも彼女の居る定位置には、少し寒い風が吹くだろう。



そしたら嫌でもこの扉に近づいて、外に出てくるんじゃないだろうか。



いつも居るその踊り場からは、外の景色は見えないだろうけど、




君が思ってるよりずっと、



世界は、綺麗だから。




それに気づいて欲しい、そんな気持ちで。






貯水槽から見上げる空は、朝からの雨が嘘のように、青く澄んでいる。




気長に待って居ようと思いながらも、やはり気になって見下ろす。




まぁ、もう、大分寒いし。来ないかもしれないな。




ごろっと寝転がって、目を閉じた。




何をやってるんだ、と自分を責めながら。




この先なんて、ないことを、自覚しているのに。




やっぱり、彼女とは会わないほうが―




カシャン




軽いフェンスの音に、思考が止まった。




跳ね起きて、音のした方を見下ろすと、倉本千晶が、そこに居た。




息を呑んで見守っていると、彼女は濡れているコンクリートの上、躊躇いもなく寝転んだ。

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