風が、吹いた



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「社長!」




はっとして、辺りを見回した。



秘書の沢木がこちらを困ったように見つめている。




「あぁ、悪い」




ついていた頬杖を改めて、椅子に座りなおした。




「何度も呼んだんですがね。志井名会長がお見えになっています」




その言葉に、背筋がスッと伸びる。




「わかった。通してくれ」



承知しました、と一礼してから、沢木は部屋を出て行った。

直ぐにノックの音がして、沢木がドアを開き、客を通す。



真っ黒な革張りのソファに深く腰を下ろすと、杖を横に置いて、老人は口を開いた。




「ご無沙汰しているのぉ、孝一。」




立ち上がって、彼の正面で頭を下げる。




「はい。中々ご挨拶に伺うことが出来ずに、申し訳ありません。御身体の具合はいかがでしょうか。」




ひっひっと、引いた笑いを溢すと、志井名は俺を見据える。




「見え透いた堅苦しい挨拶など、どうでも良いわ。」




「…そんなつもりは。…それにしても、あなたがこちらにいらっしゃるなんて、珍しいですね。」




向かい合わせに座る。



そこへ、再度ドアを叩く音。どうぞ、と言うと、沢木がお茶を運んできて、それぞれの目の前に置いた。




それを黙ってじっと見つめ、沢木が姿を消すと、志井名は本題に入るべく、少し身を乗り出す。
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