風が、吹いた
父との電話を終えた後。
がらんとした部屋に一人、暫くぼーっと扉を見つめていたが、ふと立ち上がって、窓から見える景色に目を留めた。
眼下に広がる無数のビルが、大勢の人間に見えてきて。
眩暈と共に吐き気が襲う。
「っく…」
ガタガタと引き出しから、薬を出して口の中に放り込むと、壁にもたれ掛かった。
「っはぁ…」
胸を押さえながら、想うことは。
―君は、今も、あの街に居るのだろうか。
俺のことを、覚えていてくれているだろうか。
それとも、忘れてしまっただろうか。
当たり前のように、握り返してくれた小さな手。
さよならも言わずに、その手を放したのは、自分だ。
愛しい君を、傷つけたのは、自分だ。
なのに。
それなのに、俺はあの時の記憶で、今を生きている。