風が、吹いた
電話を切ると、ふー、と気持ちを宥めるように息を吐いた。
終わりつつある任務で脱力した身体は椅子に深く沈む。
頭はもうずっと、パーティー会場での光景に支配されたままだ。
「千晶」
何年も声に出さなかった、愛おしい人の名前を口に出す。
どうしてあそこに居たんだろう。
どうしてよりによって、あの場所で、あんな自分を。
天井を見つめたまま、くしゃ、と前髪を掴む。
本当なら、すぐにでも彼女の元へと走っていって、抱き締めてしまいたかった。
目と目が合った瞬間、弾かれたように動こうとする自分を抑えるのが、至極難しかった。
まさか、君に、また、逢えるなんて。
夢の中だけのことかと思っていた。
―でも、仕方なかった。
そう言い聞かせて、今までずっとやって来た。
それは、いつものことで。
手を伸ばしてしまったら、俺は駒として動けない。
所詮は、操り人形だから。