風が、吹いた
「くそっ!」
吐き捨てた言葉と同時に、浅尾がバッと手を放した。
解放された瞬間、空気がすぅっと肺になだれ込んで、むせた。
暫く、ぜっぜっという俺の乱れた呼吸音が、車内に響く。
「…確かに俺は…自分の…せいで…彼女を、、傷つけた…、でも…待っててと言う事や…確実な約束は…縛るだけだ。迎えに行けるわけ、ないだろ…俺は、生まれたときから、、縛られてんだ。千晶を、これ以上傷つけたくは無い…」
上半身を起こすことも、乱れた服を直すこともせず、両腕をだらりと力なく垂らして目の前の浅尾を見上げた。
「じゃ、何?あんたは倉本を守ったって言いたいわけ?」
眉間の皺を深くさせて、彼は言い放つ。
「あんたが守ったものって、一体何なんだよ?!」
その言葉に、最近感じた気持ちを思い起こす。
自分は、
何のために、
何を守ろうとして、
後ろを振り返らずに、ここまで走ってきたんだろう―と。