風が、吹いた
「…仕方ないだろ。生まれた場所と時を恨むことしか、できない。」
思いとは裏腹に、口をついて出た言葉は、自分自身でも薄っぺらいと感じるもので。
納得できないだろう浅尾は、頭を大きく振った。
その仕草に、少し苛ついた。
「お前には、わかんないよ。解って欲しいとも思わない。」
「先輩こそ、わかってないんじゃないですか。」
間髪容れずに、言い返される。
「それも、子供にだって、わかることを、だ。」
やはり、未だに、彼の目は真っ直ぐだ。
睨まれているのに、心のどこかでそんな風に思った。
「先輩、よーく聴いてくださいよ。」
真剣な顔でそう言うと、浅尾は自分の両手を広げて見せた。
「人には、2つしか手は無いんです。」
……………
何を言い出すかと思えば、そんな当たり前のことを。
もしかして、何かの冗談なのか?
それとも、こいつの頭はこの8年でおかしくなってしまったんだろうか。
俺は相当怪訝な顔をして、見つめていたんだろう。
「人の話は最後まで聴いて下さい。」
心底嫌そうな顔をした浅尾から、注意された。