風が、吹いた
「…ごめん。折角だけど、全然どういう意味か、解らなかった…、申し訳ない…そろそろ社に戻らないと。」
痛いものを見るような目で、浅尾を見る。
「あー!もう。俺だってこんなまわりくどいこと言いたくなかったですよ!」
がしがしと髪を掻き毟る彼も、相当無理をしていたようだ。
「つまり!」
車を降りようと、ドアに手を掛けたところで、思わず動きを止めた。
「守れるものはひとつだけって事です。」
固まる俺に気づいているのかいないのか。
「先輩が、守れるものも、ひとつだけなんです。」
最後の質問を、彼は言う。
「嘉納孝一が、守りたいものって、何なんですか?」