風が、吹いた


「…ごめん。折角だけど、全然どういう意味か、解らなかった…、申し訳ない…そろそろ社に戻らないと。」




痛いものを見るような目で、浅尾を見る。




「あー!もう。俺だってこんなまわりくどいこと言いたくなかったですよ!」




がしがしと髪を掻き毟る彼も、相当無理をしていたようだ。






「つまり!」






車を降りようと、ドアに手を掛けたところで、思わず動きを止めた。






「守れるものはひとつだけって事です。」






固まる俺に気づいているのかいないのか。




「先輩が、守れるものも、ひとつだけなんです。」




最後の質問を、彼は言う。



「嘉納孝一が、守りたいものって、何なんですか?」
< 514 / 599 >

この作品をシェア

pagetop