風が、吹いた



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会社の地下駐車場にマスコミが張っていないことを確認すると、ドアを開けて車を降りた。




「送ってくれて、感謝する。」




そう伝えると、運転席の浅尾は不貞腐れたように、




「別に。通り道だったんで」




と、こちらを見もせずに返事をする。



相変わらず可愛げのない奴だよな、と苦笑しながら、



「じゃ、もう行く」




ドアを閉めた。



エレベーターホールに向かうため、背を向けて歩き出した瞬間。




「…さっきの話。」




背後からぼそりと声がした。



振り返ると、スモークガラスの窓を下げて、浅尾がこちらを見ている。
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